iPS細胞の臨床研究が、加齢黄斑変性の患者に対して行われ、移植から一年が経過しています。
iPS細胞のような、新しい治療方法となるうる研究が実用化されるまでには、どのような過程を経て、どのぐらいの年月がかかるのでしょうか。
何十年もかかります
iPS細胞を実際の患者に移植する臨床研究が、去年から始まっています。
iPS細胞が初めて論文で発表されたのが2006年ですから、まだ10年たっていません。
これは、新規の治療方法の実用化においては、極めて異例の速さです。通常は、基礎研究から実際の患者に応用されるまで10年以上、何十年もかかることも少なくありません。
その過程で、人間に対する副作用が明らかになると、認可がおりずに消えてしまう研究が多いのです。
それ以前に、現在の日本では、研究者の研究ポストがなかったり、研究費がないために中断せざるを得ない研究は無数にあります。
基礎研究
多くの治療方法の研究は、まず基礎研究から始まります。大学や研究機関、製薬メーカーなどの企業において、新規の治療方法や新薬の候補を絞って行きます。
この段階では、その検討は、細胞を使用したり、実験動物(マウスが多い)を使用して行います。
研究不正が騒ぎになった論文は、この段階です。
しかも、幼齢マウス(マウスの赤ちゃん)での実験(本当に行ったのか怪しいですが)なので、初歩の初歩です。
人間よりもマウス、マウスでも老齢よりは若齢や胎児の方が、再生能力が高いのが常識です。
若齢マウスで例え効果があっても、人間に効果があるものは少なく、さらには副作用があるかもしれません。
この段階の研究で、明日にでも難病に苦しむ人の治療が可能になるような期待を持つのは、大きな誤りです。
基礎研究から前臨床研究へ
基礎研究の次は、臨床研究(ヒトを対象とする研究)に向けての前臨床研究が行われます。
例えば、マウスの細胞で効果があった場合は、ヒトの細胞でも効果があるか、あるいはヒトに対して危険な副作用がないかどうかを、慎重に検討していかないといけません。
iPS細胞に関しては、ヒトに対するリスクを、大変な努力で克服しています。
最初の研究で、マウスの細胞に多能性を持たせるために導入した4つの因子(遺伝子)は、癌化も誘発する危険があるので、その危険が少ない他の遺伝子や導入方法を検討し、さらには動物由来の成分を含まない培養用の培地を開発しました。
臨床研究、そして臨床試験
そのような困難を克服して初めて、臨床研究や臨床試験(多くの患者さんに対する有効性や安全性の試験)に進むことができるのです。
臨床試験の中で、とくに、新薬に対する試験を「治験」といいます。
この段階で、さらに一部の患者に対する重篤な副作用が出ることも珍しくありません。
iPS細胞に関しては、臨床研究やその計画の申請の段階です。一般の患者が保険で治療を受けられるようになるには、まだまだ年数がかかります。
それでも、他の治療方法や、研究が継続できずに消えてしまった無数の基礎研究と比べると、格段に速いといえます。
さいごに
このように、新しい治療方法が受けられるようになるには、気の遠くなるような努力と年月が必要なのです。
これらの研究過程のどの段階も重要で、継続した努力と、研究のポストや研究費が必要なのです。
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